あるものをそのまま使う。
不便なようで、実は豊かな暮らしを住人になって体験。
中嶋デザイン事務所 中嶋さん
賃貸物件でありながら、自分好みの改修を加えて住むことも可能なジョンソンタウン。一方で、「米軍ハウス」の住人のなかには、中嶋正己さんのように「あるものをそのまま使おう」と考える人もいます。
中嶋さんは、小さな町おこしから大きな都市計画まで、商業施設の建築設計に関わってきたデザイナーで、仕事においても老舗の活用に目を向けているそうです。「たとえば、小さな城下町に大きなショッピングセンターをつくれば、まちのお店はそちらに移っていきます。すると、まちの通りは衰退して、元の良い雰囲気は失われてしまう。そういうのは好きじゃないんです」。
中嶋さんが学生時代を過ごした1970年代、大滝詠一などのミュージシャン達が住んでいた福生周辺の米軍ハウスは知られた存在でした。しかし、ジョンソンタウンのように「米軍ハウス」のまちなみを残し、今に受け継いでいる事例はあまりありません。中嶋さんは、「住宅と商店がくっついたまちなみとしても貴重」だと言います。タウンに惹かれた人たちが自然と集まり、生活や商いを営んでいることがわかると、プロのデザイナーというより住人として、「この暮らしを自分で体験してみたい」と思ったそうです。
タウンでは自宅を仕事場にしている人も多いのですが、「米軍ハウス」の古さや、駅から徒歩18分の立地に不便さは感じませんでしたか?
「古い家はアンティークカーと同じ。手入れをして住み良くすればいいんです。商売については、流行っているから、儲かりそうだからとやって来ると、思っていたのと違ってしんどいはずですよ。でも、お金で買えない価値がわかる人はわかって住んでいる。それは、高層住宅がないから空が広く見える、これって豊かだなとか。僕は、将来的にも、こういうまちはいいと思います」。
価値観が似ているせいか、話が合う人も多く、タウンに住むグラフィックデザイナーやイラストレーターに仕事を依頼することも増えてきたとのこと。「シェアオフィスとして「米軍ハウス」を使おうか?」と話し合ったり、オーナーの磯野さんとは「まち全体の家の外壁を何色で塗るか?」といった相談をしたり。
玄関のドアを開けると、通りにいた子どもたちが口々に挨拶をしてくるのもここでは普通のこと。中嶋さんは、日々の自然な対話を通じてまちなみづくりに参加しているお一人でした。
(ライター 細井 安弥)