窓の外を眺める。本を読む。
誰もがゆっくりしたくなる沖縄カフェ。
黒糖カフェ KAFUU 池上さん
「小学生のときに母が沖縄旅行に連れて行ってくれました。沖縄の海の青さ、島のあたたかさ、オバーの作る沖縄そば……それがずっと心にあって、2011年に『黒糖カフェ KAFUU』を開店しました」。池上小枝子さんは、ジョンソンタウンでカフェを開く前は名古屋に長年住み、コーヒー専門店に勤めていました。「入間市の実家で父と暮らしていた母が病に倒れて入院したとき、戻って同居をしようと思ったんです」。
小枝子さんから、タウンで飲食店を開業すると聞いた父の厚さんは「できるわけがない! ……でも失敗も勉強だからやってみなさい」と言って、娘を手伝いはじめます。厚さんは当時73歳。開店当初から毎日のようにエプロンをつけて接客をしてきました。常連さんが「最初は心配で見ていられなかった」と言うのも当然で、65歳まで出版社で編集の仕事一筋だったそうです。
KAFUUの看板料理はこだわり豆の美味しいコーヒーや、丁寧に柔らかく煮込んだ豚の三枚肉を添えた沖縄そば。仕込みが深夜に及ぶことも少なくないそうです。小枝子さんは、遅い帰宅を心配する両親の気持ちも考え、店の改装時に居住スペースも設けて休めるようにしました。
「父が車椅子の母を連れて来店できるように入り口にスロープをつけ、壁を取り払い、トイレも広くしました。母は昨年なくなりましたが、この窓辺でよくひなたぼっこをしていました」。タウンの目抜き通りに面した窓越しに保育園のお散歩カーが見えます。「みなさん楽しそうに通るので見ていて楽しいです。この店は母を基準にして改装したので車椅子の方やベビーカーのご家族連れも来てくださる。ときには自分の時間も大切にして、ゆっくり本を読みたいからと一人でいらっしゃる方もいます。そういうときに『私はこういう店がやりたかったんだ』と嬉しくなります。ポツンと一軒だけのカフェだったら味わえないワクワク感がタウンにはありますね」。
いそがしい日は東京にいる小枝子さんの従姉も来てみんなで働くのだそうです。「父にとってここに居場所があるのはすごく大きい。姿が見えないと常連さんのお子さんまで『じいじ今日はどうしたの?』と心配してくれて。それも父のモチベーションになっています」。
さまざまな家族の暮らし、そのひとつ一つがジョンソンタウンの活力となり、魅力となっているのです。
(ライター 細井 安弥)